大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)4001号 判決 1976年2月26日
原告
東邦レーヨン健康保険組合
右代表者
池岡正孝
原告
大河慶二郎
右原告ら訴訟代理人
本田秀夫
被告
松下佐一
右訴訟代理人
西枝攻
外三名
被告
湊口照男
被告
株式会社ヒカリ屋
右代表者
佃光蔵
右被告二名訴訟代理人
桑嶋一
被告
トヨタオート滋賀株式会社
右代表者
横山敏雄
右訴訟代理人
吉田朝彦
被告
株式会社滋賀マツダモータース
右代表者
平井壽一
主文
被告松下佐一、同湊口照男、同株式会社ヒカリ屋、同トヨタオート滋賀株式会社同株式会社滋賀マツダモータースは、各自、原告東邦レーヨン健康保険組合に対し、金一、六一六、二九六円およびこれに対する昭和四七年九月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
被告松下佐一、同湊口照男、同株式会社ヒカリ屋、同トタヨオート滋賀株式会社、同株式会社滋賀マツダモータースは、各自、原告大河慶二郎に対し金二、五一三、〇四〇円(ただし、被告湊口照男、同トヨタオート滋賀株式会社、同株式会社滋賀マツダモータースは、各自金二、四九三、〇四〇円)およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告大河慶二郎のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、被告らの負担とする。この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
被告らは、各自、原告東邦レーヨン健康保険組合に対し、金一、六一六、二九六円およびこれに対する昭和四七年九月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告大河慶二郎に対し、金二、七九四、〇八九円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行の宣言。
二、請求の趣旨に対する答弁(被告五名)
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 請求原因
一、事故の発生
1 日時 昭和四五年一〇月二四日午後五時一五分頃
2 場所 彦根市犬方町二四一先四差路上
3 加害車 普通乗用自動車(滋五ほ七三四号)
右運転者 被告松下佐一(以下被告松下という)
4 被害者 原告大河慶二郎(以下原告大河という)
5 態様 南進中の加害車が、自転者に乗つて西から東へ横断中の原告大河に衝突した。
二、責任原因
1 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告松下は、加害車を運転中他車を追い起して自車線に戻ろうとした際、同車の動静に気を取られて前方注視を怠り、そのため折から進路前方を自転車に乗つて右から左へ横断中の原告大河の発見が遅れて本件事故を発生させた。
2 共同不法行為責任(民法七一九条)
被告淡口照男(以下被告淡口という)、同松下は、いずれも被告株式会社ヒカリ屋(以下被告ヒカリ屋という)の職員で、被告湊口はその営業部長であつて被告松下の上司に当たる者であるが、事故当日被告ヒカリ屋のちらし広告の印刷物注文の社名を帯びて被告ヒカリ屋の職員訴外上藪直清以下上藪という)から一時借り受けた加害車を運転して被告ヒカリ屋から彦根市の印刷屋訴外永昌堂(以下永昌堂という)に赴く途中右業務担当の被告松下を同乗させ、事故当時は所用を済ませて帰社する途中で、被告松下に加害車を運転させ、自らは助手席に同乗していたが、後刻同被告と運転を交替する予定をしていたものであり、このような事情のものにあつては、被告湊口は、被告松下と共同して不法行為をなしたというべきである。
3 使用者責任(民法七一五条一項)
被告ヒカリ屋は、繊維製品の小売り販売を主たる業務とする百貨店であり、被告湊口および同松下を雇用していたものであるところ、前記のとおり同被告らがその業務の執行として加害車を利用して被告ヒカリ屋のちらし広告の印刷を永昌堂に注文しての帰途、被告松下の前記過失により本件事故が発生した。
4 運行供用者責任(自賠法三条)
(一) 被告トヨタオート滋賀株式会社(以下被告トヨタという)は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。同被告は、自動車および自動車補給部品の買取販売、売買斡旋ならびに修理加工その他の業務を営む会社であるところ、事故当時、被告株式会社滋賀マツダモータース(以下被告マツダという)に対して、顧客訴外宮崎初雄(以下宮崎という)から下取りした加害車の販売を委託していたものであるが、運行供用者責任は免れない。
(二) 被告マツダは、自動車および部分品の売買ならびに修理加工、中古自動車の売買ならびに委託販売等を営む会社であるが、被告トヨタから加害車の販売の委託をうけてこれを保有し自己のために運行の用に供していた。もつとも、被告マツダは、上藪から同人所有の自動車の修理を依頼され、前記のとおり販売委託をうけて保有していた加害車を、昭和四五年一〇月二二、三日頃修理期間中の代用車として一時同人に使用貸して引渡したところ、右上藪が本件事故当日その勤務先である被告ヒカリ屋の上司被告湊口にさらに一時転貸し、同被告が会社の部下の被告松下を同乗させて社用に使用中、被告湊口と一時運転を交替した被告松下が本件事故を起こしたものであるが、おな被告マツダは運行供用者責任を免れない。
三、損害
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷
左大腿骨、下腿骨、第二中足骨骨折、顳部外傷、右全額挫創、全身打撲および擦創過
(二) 治療経過
入院
昭和四五年一〇月二四日から昭和四六年八月二八日まで……豊郷病院
昭和四六年八月三〇日から同年一〇月二日まで……岐阜県立下呂温泉病院
通院
昭和四六年一〇月四日から同年一一月一五日まで……豊郷病院
昭和四六年一二月九日から松島整形外科医院に通院
右のとおり入、通院して治療をうけたが、左膝関節拘縮および左下肢筋の萎縮は完治するにいたらず、随時主治医の指示をうけ、毎日万能滑車機を用いて左脚の機能訓練を続けている。主治医の診断によれば、今後本人の努力により更に回復するかも知れず、後遺症を残すかも知れないとのことである。
2 治療関係費
(一) 治療費
(1) 一、二八九、四三九円
右は豊郷病院、岐阜県立下呂温泉病院および松島整形外科病院における治療費であり、後記のとおり原告東邦レーヨン健康保険組合(以下原告組合という)がその支払をした。
(2) 一五三、〇二〇円
右は入院室料、初診料、一部負担金および診断書等費であり、原告大河が負担した。入院中の個室、二人室等の使用は、当該病院の収容全患者の各治療事情や室のやりくり等のため、その都度病院側の指示に従つたもので、原告大河からの申し入れによるものではない。
(3) 一二、七〇〇円
右は豊郷病院入院中および退院後におけるマツサージ代である。
(4) 一二二、〇〇〇円
右は機能訓練用の万能滑車機一台およびステツキ一本の代金である。
(二) 入院雑費
(1) 一九、五二〇円
右は入院中のテレビ電気代、暖房費、氷代等である。テレビ視聴は入院患者にとつて必要な慰安行為であるから、そのための電気代は必要な費用といえる。
(2) 二三、〇〇〇円
右は豊郷病院、岐阜県立下呂温泉病院、松島整形外科医院の医師および看護婦に対する謝礼である。
(3) 六八、四〇〇円
右は見舞客に対する返礼である。これは原告大河の勤務会社内での地位、職務に起因するもので、さけることができなかつた。
(三) 交通費
(1) 二二、〇〇〇円
右は豊郷病院に入院中のタクシー代金である。
(2) 二〇、〇〇〇円
右は岐阜県立下呂温泉病院に入、退院した際の、原告大河とその家族の者の汽車賃等である。
(3) 一〇、〇二〇円
右は原告大河が豊郷病院および松島整形外科医院に通院するために要したバス、電車賃である。
3 休業損害 八六四、四二一円
(一) 原告大河分
原告大河は、事故当時東邦レーヨン株式会社に勤務していたが、本件事故により昭和四五年一〇月二六日から昭和四六年一一月一一日まで欠勤を余儀なくされ、同年九月一二日同年一一月一一日までの間の欠勤による給料として八〇、八三四円、昭和四五年一一月二〇日から昭和四六年一一月二〇日までの間の欠勤による賞与減として五五一、〇八七円、右合計六三一、九二一円の損害を被つた。
(二) 妻ノブ分
原告大河の妻ノブは、事故当時東邦レーヨン株式会社に勤務していたが、同原告が本件事故により入院中付添いを必要としたため、同原告に付添い同社を欠勤したことにより、給料分一八五、一〇〇円、賞与分四七、四〇〇円、右合計二三二、五〇〇円の収入を失つた。
なお、原告大河の家族構成は、夫婦のほかに大学、高校各在学中の子がおり、夫婦の収入を合わせて生活費のほかに子の学費を弁じていたのであるから、妻の収入減はいわば家団の筆頭責任者である原告大河の逸失利益とみなすべき性質のものであり、しかも妻の欠勤の理由は同原告の付添いのためであるから、もしその付添いがなかつたならば、同原告の傷害の重さに鑑み、当然付添婦を雇用する必要があり、六か月間に前記二三二、五〇〇円程度の支払いを要したことは十分推認しうるところであり、いずれの名目によるにせよ、原告大河自身の損害として被告らに対して請求しうるものというべきである。
4 慰藉料 一、二〇〇、〇〇〇円
原告大河は豊郷病院に一〇か月、岐阜県下呂温泉病院に一か月の入院生活をし、その後豊郷病院に四〇日間通院し、爾来病院勤務の傍ら、自宅で万能滑車機による左脚の機能訓練に努めているが、今後完全回復をみるか後遺症を残すか判明しない状態にある。
入院中、被告松下は責任を感じて数回にわたり見舞金を持参したものの資産がなく、被告湊口、同ヒカリ屋、同トヨタからは自分たちに責任はないとの回答がなされ、被告トヨタと同マツダとの関係も不分明のため、将来損害賠償を求める方法につき原告大河は治療期間を通じ苦慮を続け、他方、勤務会社からは当初一年間にわたり全給料を支給されたことの責任上一日も早く職場に復帰したい念にかき立てられても身体が伴わず、また自分の怪我のため会社の人事にまで支障を生ぜしめていることに対して心苦しさを感じ、さらに私生活上でも、家族が分散して生活する不便を甘受しなければならなかつた。
このような諸事情を考慮し、入院中の慰藉料は一か月につき一〇〇、〇〇〇〇の割合で、一、一〇〇、〇〇〇円とし、通院中の慰藉料は一〇〇、〇〇〇円とするのを相当とする。
5 着衣損傷等 計八〇、〇〇〇円
原告大河は、事故当時着用していた洋服、ネクタイ、ワイシャツ、下着、時計バンド、ズボン用ベルト、靴が損傷したことによつて合計八〇、〇〇〇円の損害を被つた。
6 物損 二〇、〇〇〇円
原告大河は、本件事故により自転車が破損したことにより二〇、〇〇〇円の損害を被つた。
四、原告組合の求償権取得
原告組合は健康保険法にもとづいて設立された法人であり、原告大河は原告組合の管掌する健康保険の被保険者であるところ、原告組合は前記三の2の(一)の(1)の療養費一、二八九、四三九円を各診療所に支払い、原告大河に対し、休業補償に相当するものとして傷病手当金および傷病手当付加金合計一七九、九二一円を支給したが、右支給の原因である事故は前記のとおり第三者である被告松下らの行為によつて生じたものであるから、原告組合は同法六七条一項により同原告のなした給付額(一、四六九、三六〇円)の限度において、原告大河が被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。
五、損害の填補
原告大河は被告松下から七五、〇〇〇円の支払いをうけた。よつて、右金額で同原告の請求金額につき損益相殺をすると、同原告の請求額は二、五四〇、〇八一円となる。
六、弁護士費用
原告組合 一四六、九三六円
原告大河 二五四、〇〇八円
右はいずれも請求額の一割相当額である。
七、本訴請求
よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による)を求める。
第三 請求原因に対する被告らの答弁
一、被告松下
一の1ないし5は認める。
二の1は争う。
三は、その1の(一)のうち原告大河が左大腿骨および下腿骨を骨折したこと、2の(一)の(1)、(2)は認めるが、その余は争う。原告大河主張の損害の中には、入院中の個室、二人室料、テレビ電気代、同原告の妻の休業損害など本件事故と相当因果関係のないものが含まれている。
四は、そのうち原告組合がその主張する治療費を支払つたことは認めるが、その余は争う。
五のうち被告松下が七五、〇〇〇円を支払つたことは認める。
二、被告湊口、同ヒカリ屋
一の1ないし5は認める。
二の2、3のうち、被告ヒカリ屋の業務内容および同被告がその営業部長として被告湊口を雇用していたこと、以前被告松下を雇用していたこと、加害車は被告湊口が被告ヒカリ屋の職員上藪から借り受けたものであること、本件事故当時被告松下がこれを運転中であり、被告湊口は助手席に同乗していたことは認めるが、その余は争う。
被告松下は、事故当時被告ヒカリ屋の被用者ではなかつた。すなわち、被告ヒカリ屋にあつてはその従業員の約三分の二は未婚の女子で構成されていることから風紀問題には特に厳格であり、原則として従業員同士の男女問題は許されないこと、もしこれに違反したときには懲戒解雇する旨を常々全従業員に注意して周知させていたところ、被告松下において社則では許されない女子従業員との交際を続けており、ことに事故の前々日、同被告は被告ヒカリ屋の女子従業員としめしあわせて退社後外泊したことが、事故の前日である昭和四五年一〇月二三日に発覚した。そこで、被告ヒカリ屋は、就業規則六九条三号、一五号、一九号に照らして同日被告松下を即刻懲戒解雇処分に付し、八日市店長高橋哲朗を通じて被告松下に対し、その旨告知した。かりに右告知がなされていなかつたとしても、被告松下としては、自己の行為が社則に触れ当然懲戒解雇の処分をうけるものであることを承知しており、同日自己が懲戒解雇になつていることを知つていたから、同日懲戒解雇の効力が発生した。したがつて、被告松下は事故当時すでに被告ヒカリ屋の従業員ではなかつた。
本件事故は被告ヒカリ屋の業務の執行中のものではない。すなわち、被告湊口が本件事故の直前に被告ヒカリ屋がちらし広告の印刷を依頼していた永昌堂に立ち寄つていることは原告ら主張のとおりであるが、同被告において被告湊口に永昌堂に赴くことを命じたことはない。被告ヒカリ屋と永昌堂との契約によれば、ちらし広告の原稿は永昌堂の方が被告ヒカリ屋まで取りに来てこれを印刷したうえ新聞販売店へ届けることになつていたのであるから、同被告の方から原稿を持つて永昌堂に赴くことはありえないことであり、また、被告湊口が社用で永昌堂へ行くのであれば社有車があつたのであるからこれを使用した筈でもあつて(社用のため私有車を用いることは被告ヒカリ屋では厳禁していた)、事の真相は、被告湊口において同松下との私的話し合いの時間を作る目的から、勝手に、届ける必要のない原稿を持つて永昌堂に赴いたにすぎず、被告湊口が永昌堂へ赴いたことは被告ヒカリ屋の業務を行つたものとはいえない。
三は不知。
三、被告トヨタ
一は不知。
二の4の(一)は否認する。
被告トヨタは事故当時加害車を所有していたものではない。加害車は、事故当時、訴外小林軸三(以下小林という)が所有していた。すなわち、
1 宮崎がもと加害車を所有していたが、同人は昭和四五年一〇月上旬頃被告トヨタから新車を買い受ける際、不要となつた加害車を他に売却したいと考え、売却方を同被告のセールスマン訴外鵜飼孝(以下鵜飼という)に依頼したところ、同人は訴外荻原友蔵を介して同車を被告マツダに勤務していた小林に売却する仲介をしてやり、同月一三日ころ宮崎と小林との間で売買契約が成立し、同月二一日ころ加害車は小林に引き渡され以後同人が占有していた。
もつとも、事故当時における加害車の登録上の所有名義人は被告トヨタであるが、それは、小林が加害車を他に転売しその買主に登録名義を直接取得させるために、自己への登録移転を要求しなかつたので、登録をそのまま放置しておくと、新買主名義に登録するまでの間被告トヨタの顧客である宮崎に自動車税等が賦課されて同人に迷惑がかかることを恐れて、鵜飼が一時被告トヨタの所有名義に登録したものであつて、中古車売買の商取引においては右は慣習となつており、したがつて、同被告名義の登録は加害車の実質上の所有権が同被告に帰属することを意味するものではない。
かりに、小林が加害車の代金を完済するまでの間、被告トヨタの名義にしたものであるとしても、それは宮崎の利益を考えその代金債権を確保するためのものにすぎず、加害車に対する支配権能とは関係がない。
2 かりに、被告トヨタが、宮崎から加害車を下取りしたとしても、同被告は本件事故以前の昭和四五年一〇月二一日頃には既にこれを小林に売却、引き渡しずみであり、登録の目的が代金債権の確保にある以上、同被告に運行供用者の責任はない。
3 かりに、被告トヨタと同マツダとの間に原告ら主張の販売委託契約があつたとしても、昭和四五年一〇月二一日頃には既に小林との間に売買契約が成立し、加害車は小林に引き渡しずみであるから、被告トヨタに運行供用者責任はない。
4 被告トヨタと被告マツダとの間に加害車につき販売委託契約が存在し、かつ、小林との間にいまだその売買契約が存在しなかつたとしても、被告マツダは加害車を上藪に代車として貸したものであるから同被告に運行供用者責任はなく、しかも、上藪はさらに被告湊口に加害車を転貸し、同被告はさらに被告松下にこれを運転させており、その上被告トヨタは被告マツダに加害車の販売を委託しただけであるから、被告トヨタに運行供用者責任は生じようがない。
三ないし六は不知
四、被告マツダ
一は不知。
二の4の(二)は、そのうち被告マツダが昭和四五年一〇月二〇日頃上藪から同人の所有自動車の修理を依頼されたことは認めるが、その余は否認する。
三ないし六は不知。
第四 被告松下および同トヨタの主張
本件事故の発生については、原告大河にも幹線道路を横断するに際し、左方に対する安全の確認を怠つた過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺がなされるべきである。
第五 被告らの主張に対する原告らの答弁
一、被告湊口、同ヒカリ屋の被告松下の解雇についての主張、被告トヨタの小林への加害車売却引き渡しの主張は争う。
二、前記第四の被告松下および同トヨタの主張はいずれも争う。
第六 証拠関係<省略>
理由
第一事故の発生
<証拠>によれば、請求原因一の1ないし5の事実が認められる(右事実は、原告らと被告松下、同湊口および同ヒカリ屋との間では争いがない)。
第二責任原因
一被告松下
前掲各証拠によれば、
1 本件事故現場は、南北に通じる国道八号線(以下本件道路という)と東西に通じる歩車道の区別のない幅員4.5メートルの道路とが交差する、信号機がなく交通整理の行われていない彦根市犬方町二四一番地先交差点内にある東西に通じる横断歩道上であること
2 本件事故現場付近の本件道路は、歩車道の区別がなく、幅員7.8メートルのほぼ平坦なアスフアルト舗装のされた東西道路への見通しの悪い直線道路となつており、交通量は極めて多いが、標識等による格別の速度制限はされてなく(政令で定める時速六〇キロメートルの規制による。)、前記横断歩道の存在を示す標識は本件交差点の北東および南西角付近に、本件道路の上方に張り出した形で設置されているオーバーハングと路面上に描かれた白線の縞模様であること
3 被告松下は、加害車を運転して本件道路を北から南に向けて進行中、本件事故現場の手前において、先行車を、追い越そうと加速し対向車線に進入して同車と併進状態となつた時、同車が加速したのでさらに加速し時速八〇キロメートル以上の速度で同車を追い抜き、もとの自車線にもどるために同車との接触が気になつて後方を振り返つたため、進路前方に対する注視がおろそかになつたこと
4 原告大河は、自転車を操縦して前記横断歩道上を西から東に横断しようとして、交差点西側入口付近において一旦停止したうえ、まず左方(北方)を見て千鳥橋(交差点から北方約五〇〇メートルのところにある。)までの間には南進車両のないことを確認し、次に右方(南方)から進行してきた北進車両二台の通過を待つた後、再度左方の安全を確認することなく自転車に乗つて横断を開始したこと
5 被告松下は、前記のとおり前方注視を怠つたため、横断中の原告大河を自車の前方約三六メートル至つて初めて発見し、直ちに急制動の措置を講じたが間に合わず、加害車を同原告の自転車に衝突させたこと
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。もつとも、弁論の全趣旨によつて成立を認めうる甲第二および第一〇六号証中には、原告大河が横断を開始するに際し一たん左右の安全を確認し右からの車両の通過を待つた後さらに左方を確認したが、加害車の存在は目に映らなかつた旨の記載があるが、横断開始直後、現実に本件事故が発生している以上、同原告が二度目に左方を見た時に加害車が接近してきていたものと認めざるをえず、そうであれば、同原告が横断開始直前に左方に対する安全を確認したものとはいえないから、右記載部分は採用できない。
右認定の事実によれば、被告松下は、前方注視を怠つた過失により本件事故を発生させたことが認められる。
したがつて、被告松下には民法七〇九条により、本件事故による原告大河の損害を賠償する責任がある。
二被告ヒカリ屋
1 まず、被告松下が本件事故当時被告ヒカリ屋の被用者であつたか否かについて判断する。
被告松下がの和四五年一〇月二二日まで、被告ヒカリ屋の従業員であつたことは原告らと被告ヒカリ屋との間に争いがない。
ところで、被告ヒカリ屋は、本件事故日の前日にあたる同月二三日付をもつて、被告松下をその風紀問題を理由に就業規則に基づき懲戒解雇処分に付し、同日同被告に対し、被告ヒカリ屋八日市店店長高橋哲朗を通じその旨告知した、かりに告知の事実が認められないとしても、被告松下は同日自分が懲戒解雇されたことを知つていた旨主張するけれども、<証拠>によつても、被告ヒカリ屋主張の右事実を認めるに十分でなく(証人高橋哲朗は被告松下が解雇された旨を同被告に通知するよう被告湊口に命じた旨証言するが、同被告は命じられた記憶がないと供述し、同被告の供述は同被告を通じての懲戒解雇処分の通知を否定するものとなつている。)、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。かえつて、<証拠>によれば、被告松下は同月二二日午後から翌二三日にかけて同僚の女子従業員と遊びに行き、二三日は勤務先の被告ヒカリ屋八日市店を無断欠勤したのであるが、同月二六日に至つて右女子従業員との行動が就業規則に違反するとの理由で懲戒解雇された旨の連絡を受け、さらにその後において、同被告から内容証明郵便で右と同趣旨の通知をうけ、解雇予告手当の提供をうけたこと、被告松下および同湊口は、いずれも本件事故に関し警察官の取り調べを受けた際、被告松下は被告ヒカリ屋の従業員である旨申し述べ、被告松下は被告ヒカリ屋の従業員であると考えていたことが認められ、この認定に反する証拠はない。したがつて、被告ヒカリ屋は、その主張の日に被告松下を懲戒解雇処分に付したとはいえないし、たとい右日に被告松下を懲戒解雇処分に付したとしても、本件事故以前においては右処分はその効力を生じていないから、本件事故当時においては、被告松下はなお被告ヒカリ屋の被用者であつたというべきである。
2 つぎに、本件事故が被告ヒカリ屋の業務を執行するについて発生したものかどうかについて判断する。
被告ヒカリ屋が繊維製品の小売り販売を主たる業務とする百貨店であることは原告らと被告ヒカリ屋との間に争いがなく、<証拠>によると、(一)被告湊口は被告ヒカリ屋八日市店の営業部長であるとともに同店のちらし広告の印刷関係の仕事を担当していたこと、被告松下は同店の企画宣伝部に所属し、ちらし広告の仕事を担当していたこと、(二)被告ヒカリ屋と永昌堂との間の契約では、ちらし広告印刷の原稿を永昌堂の方で同被告の所まで取りにきたうえで印刷し、それを新聞販売店へと回すことが取り決められ、同被告の内部では原稿を永昌堂へ持参することは許していなかつたこと、一〇月二四日に被告湊口が永昌堂へ原稿を持参したことは上司の命令によるものではなかつたこと、しかし現実にはかつて被告湊口や同松下の方から、原稿を持参したり印刷内容を訂正させたりするため永昌堂に赴いたことがなかつた訳でもなく、一〇月二四日の場合も、しいて言えば電話で事足りる用件ではあつたが、被告湊口としては直接赴く方が仕事が進むと考えて出かけたこと、(三)被告ヒカリ屋内部では、八日市店についていえば営業用の自動車が一台備えつけられており、私有車を社用に用いることは禁止されていたが、事実上は私有車を社用に使うことがあつたこと、(四)被告湊口は、一〇月二四日永昌堂に頼んでおいたちらし印刷につき広告品の値段を訂正させるため永昌堂へ赴くに際し、近くにあつた加害車を被告ヒカリ屋の従業員の上藪から借り受けてこれを運転して被告ヒカリ屋八日市店を出て、被告松下の不行跡について同被告と話し合いの機会を作るふくみもあつて広告係の同被告(当日欠勤していた)を誘い、途中同被告と運転を交替し、永昌堂での用件を済ませて引き続き運転を同被告にまかせての帰途本件事故が発生したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、当日欠勤していたとはいえ、被告松下が上司の被告湊口の誘いに応じて同被告とともに、自己の担当するちらし広告の値段訂正のため永昌堂へ赴くことは、まさに被告松下の職務行為であるというべきであつて、これに対して、被告ヒカリ屋内部での規則もしくは取り扱いが、原稿の持参については前認定の(二)、私有車の社用への使用については前認定の(三)のとおりであり、被告松下の行為がこれらに反するものであるとしても、それは職務執行が被告ヒカリ屋の容認しない態様でなされたというにすぎず、本件における程度の内部の規則や取り扱いに対する違反が職務行為としての性格そのものを否定しうるものとは考えられない。
したがつて、既に認定したとおり、被告松下に過失が認められる以上、被告ヒカリ屋は、民法七一五条により、その被用者被告松下が事業の執行につき原告大河に加えた損害の賠償責任を負担しなければならない。
三被告湊口
本件事故当時被告湊口が同ヒカリ屋の営業部長であり、被告松下が加害車を運転しており、その助手席に被告湊口が同乗していたことは原告らと被告湊口との間で争いがなく、<証拠>、前記認定の事実によれば、事故当時被告湊口は被告ヒカリ屋の従業員である被告松下の上司であつたこと、被告湊口は事故当日加害車を運転してちらし広告印刷の件につき社用で被告ヒカリ屋の取引先である彦根市の永昌堂に向かつたのであるが、その途中で被告松下を同乗させ、次いで運転の資格をもつ同被告と運転を交替し、自らは助手席に乗つたこと、永昌堂における用件を終えての帰途に本件事故が発生したことが認められる。
原告らは被告湊口には民法七一九条所定の共同不法行為責任がある旨主張するのであるが、右事実関係のもとでは、被告湊口はいまだ同条所定の不法行為者とはいえず、他に原告らの主張を肯認しうべき事実を認めるに足りる証拠はないから、原告らの右主張は採用できない。しかし、加害車は被告湊口が被告ヒカリ屋の職員で同僚である上藪から借り受けたものであることは原告らと被告湊口との間では争いがないから、被告湊口は加害車を運行の用に供していた者というべく、同被告には、本件事故につき自賠法三条による損害賠償責任がある。
四被告トヨタ
<証拠>を綜合すれば、被告トヨタが昭和四五年一〇月上旬ころ、宮崎に対して新車を販売する際、同人から同人所有の加害車(マツダのロータリーエンジン車)を下取りしてその所有権を取得したことが認められ、<証拠判断省略>。
つぎに、<証拠>を綜合すれば、被告トヨタは被告マツダに対して加害車の販売を委託してその占有を移転し、本件事故当時なお右契約関係が続いていた事実が認められ、<証拠判断省略>。
以上認定の事実からみると、被告トヨタは、加害車の所有者であるところ、事故当時被告マツダに加害車の販売を委託してその占有を移転していたものであるが、販売の委託は被告トヨタの企業利益のためになされたものであることは明らかであるほか、同被告は、加害車をいつでも容易に引き揚げうる地位にあつたものであり、他に特段の事情の認められない本件においては、同被告は、加害車につき運行支配と運行利益を有していたものというべきである。もつとも、加害車の占有が、被告マツダからその顧客上藪へ同人の自動車修理期間中の代車として、さらに上藪からその勤務先、被告ヒカリ屋の同僚である被告湊口へ同被告の社用のため順次貸与されて移転し、被告松下においてこれを運転して本件事故を生ぜしめたものであることは後記三のとおりであるが、中古自動車の委託販売の性質から考えて、それが受託者あるはその顧客によつて使用されることのあることは予見範囲内の事柄であり、しかも、顧客上藪への貸与予定期間は短かく、そして、上藪から加害車を転借した被告湊口、これを運転した被告松下はいずれも上藪の勤務先被告ヒカリ屋の同僚であり、転貸借の期間は極く短時間が予定されていたにすぎないから、加害車の右占有の移転が被告トヨタの運行供用者性に影響を及ぼすものといいがたい。
したがつて、被告トヨタには本件事故につき自賠法三条による損害賠償責任がある。
五被告マツダ
被告マツダの業務内容が原告らの主張どおりであることは弁論の全趣旨によつて認められ、<証拠>によれば、小林は被告マツダの従業員であることが認められ、本件事故当時、被告マツダが被告トヨタから加害車の販売を委託されていたことは前叙のとおりである。
つぎに、被告マツダの八日市営業所が昭和四五年一〇月二〇日ころ上藪から同人所有の自動車の修理の依頼をうけたことは原告らと被告マツダとの間に争いがなく、<証拠>と前認定の諸事実とを合せ考えると、上藪は、小林を介して被告マツダから同被告における自己の自動車の修理期間(約一週間)中代用車として加害車を借りうけたことが認められ、<証拠判断省略>。
してみると、被告マツダは、被告トヨタから販売委託をうけて管理、支配していた加害車を、営業上の利用のために修理期間という短期間、顧客たる上藪に使用貸ししたものであつて、他に特段の事情が認められない本件においては、被告マツダは加害車に対する運行支配と運行利益とを有していたというべきである。
もつとも、<証拠>によると、上藪は被告ヒカリ屋八日市店の従業員であつて、右の通り提供された加害車を通勤に使用して同店に駐車しておいたところ、事故当日、上司たる被告湊口から要請されて同被告に一時転貸したこと、同被告は社用で彦根市の永昌堂へ赴くために加害車を上藪から借りうけ、途中から部下の被告松下と運転を交替し、同被告が運転中に本件事故が発生したことが認められるが、また、永昌堂への往復の所要時間は高高二時間くらいのものであることも認められ、このように転貸借の期間がごく短時間であることや上藪、被告湊口、同松下はいずれも被告ヒカリ屋の従業員であるという相互の身分関係を考慮すると、前記の上藪から被告湊口への加害車の転貸によつて、被告マツダの加害車に対する運行支配や運行利益がなくなるものとはとうていいえない。
したがつて、被告マツダには、本件事故につき自賠法三条による損害賠償責任がある。
第三損害
1 受傷、治療経過等
<証拠>によれば、請求原因三の1の(一)および(二)の入通院の事実が認められ(ただし、豊郷病院への通院は昭和四六年一一月一一日まで)、さらに昭和四七年五月一五日から同月二一日までの間、松島整形外科医院に入院したことが認められる。
2 治療関係費
(一) 治療費
(1) 一、二八九、〇一九円
請求原因三の2の(一)の(1)は原告らと被告松下との間では争いがなく(ただし、金額については後で説示するとおり計算ちがいがある)、<証拠>によれば、請求原因三の2の(一)の(1)の治療費に関し原告組合が原告大河が要した治療費のうち一、二八九、〇一九円を支払つたことが認められる。請求原因三い2の(一)の(1)の金額の中には、前掲甲第四二号証によれば原告大河が個人で負担すべきものとされる一部負担金四二〇円が含まれているので、請求原因の一、二八九、四三九円から右の四二〇円を控除した金額が、原告組合の支払つた金額と認められる。
(2) 一五三、一四〇円
<証拠>によれば、原告大河が入院室料、初診料、一部負担金として一四九、一二〇円を支払つたことが認められる。
また、前認定のとおり、右のほかに原告大河は一部負担金として四二〇円負担したことが認められる。
前認定の原告大河の治療経過、<証拠>、経験則によれば、原告大河は右認定の初診料のほか初診料として六〇〇円支払つたことが認められる。
<証拠>と経験則によれば、原告大河は診断書類の費用として三、〇〇〇円を支払つたことが認められ<証拠判断省略>。
なお、入院中の個室、二人室料の使用についての事情は、弁論の全趣旨によつて原告ら主張のとおりであることが認められるから、これを損害として認容する。
(3) 一二、七〇〇円
<証拠>によれば、請求原因三の2の(一)の(3)の事実(マツサージ代)が認められる。
(4) 一一九、五〇〇円
<証拠>によれば、原告大河は万能滑車機一台およびステッキ一本の代金として一一九、五〇〇円を支払つたことが認められる<証拠判断省略>。
(二) 入院雑費
(1) 一九、五二〇円
<証拠>、経験則によれば、請求原因三の2の(二)の(1)の事実(入院中のテレビ電気代等)が認められる。
(2) 二三、〇〇〇円
前認定の原告大河の受傷の部位、程度、入院期間等を参酌し、<証拠>、経験則によれば請求原因三の2の(二)の(2)の事実(謝礼)が認められるところ、これも損害として認容する。
なお、原告大河は見舞客に対する返礼として六八、四〇〇円を請求し、<証拠>によれば右の名目で右の金員を支出したことが認められるけれども、見舞客に対する返礼はこれを損害として認めるのは相当でない。
(三) 入院付添い費
二三二、五〇〇円
<証拠>によれば、請求原因三の3の(二)の事実が認められる。原告大河は右金額を一応同原告の休業損害として請求しているが、その趣旨は入院付添い費の請求としても理解でき、同原告はその名目に固執しないことが明らかであるから、入院付添い費として認容することとする。
(四) 交通費
(1) 二二、〇〇〇円
<証拠>によれば、請求原因三の2の(三)の(1)の事実が認められる。
(2) 一六、〇〇〇円
<証拠>によれば、原告大河が岐阜県立下呂温泉病院に入、退院した際の、原告大河とその家族の汽車賃等として一六、〇〇〇円要したことが認められる。昭和四六年九月一九日の原告大河の妻と長男の見舞のための費用四、〇〇〇円は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認めがたい。
(3) 七、六八〇円
<証拠>によれば、原告大河は豊郷病院に二七回通院したことが認められ、<証拠>によれば、同原告は松島整形外科医院に計五六回通院したことが認められる。そして<証拠>によれば、豊郷病院への一回の往復交通費用は一六〇円、松島整形外科医院へのそれは六〇円であることが認められる。したがつて、原告大河は右両病院への通院費用として計七、六八〇円支出したことが認められる。<証拠判断省略>。
3 休業損害 六三一、九二一円
<証拠>によれば、請求原因三の3の(一)の事実が認められる。
4 慰藉料 一、二〇〇、〇〇〇円
本件事故の態様、原告大河の受傷の部位、程度、治療の経過、後遺障害の残存する可能性そのその他諸般の事情を考えあわせると、同原告の慰藉料は一、二〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。
5 着衣損傷等 八〇、〇〇〇円
<証拠>によれば、請求原因三の5の事実が認められる。
6 物損 二〇、〇〇〇円
<証拠>によれば、請求原因三の3の事実が認められる。
第四過失相殺の抗弁
前記第二の一で認定した事実によれば、本件事故の発生については、原告大河にも横断を開始する直前に左方に対する安全を確認しなかつた過失が認められるが、それ以前には左方約五〇〇メートルの間には接近してくる車両がなかつたことを確認しているのであるから、前認定の被告松下の過失(無謀な追い越しと前方不注視)に比べると軽微なものであるから、同原告の過失はいまだ損害額算定上斟酌すべき程度の過失とはいえない。したがつて、被告松下、同トヨタの過失相殺の主張は理由がない。
第五損害の填補
被告松下が原告大河に対して損害の填補として七五、〇〇〇円支払つたことは自ら認めるところである。
よつて、原告大河の前記損害額から右填補分を差し引くと、同原告の残損害額は三、七五一、九八〇円となる。
第六原告組合の求償権取得
<証拠>によれば、原告組合は、原告大河に対し、同原告の本件事故による休業補償に相当するものとして、傷病手当金、傷病手当付加金合計一七九、九二一円を支給したことが認められ、原告組合が原告大河の治療費一、二八九、〇一九円を各診療所に支払つたことは前認定のとおりである。そして、右各支給の原因である事故が被告松下の行為によつて生じたことも前認定のとおりであるから、原告組合は健康保険法六七条一項によつて同原告のなした給付額(合計一、四六八、九四〇円)の限度において、原告大河が被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。
よつて、原告大河の前記残損害額三、七五一、九八〇円から原告組合の右給付額一、四六八、九四〇円を差し引いた残額二、二八三、〇四〇円が原告大河の固有の損害額となる。
第七弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告らに対し本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告組合においては一五〇、〇〇〇円、原告大河においては二三〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。
第八結論
よつて、被告松下、同湊口、同ヒカリ屋、同トヨタ、同マツダは、各自、原告組合に対し同原告の請求額である一、六一六、二九六円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることを本件記録に徴して明かな昭和四七年九月二四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、被告松下、同ヒカリ屋は、各自、原告大河に対して二、五一三、〇四〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、自賠法三条による損害賠償責任を負う被告湊口、同トヨタ、同マツダは、各自、原告大河に対して同原告の損害額から物損二〇、〇〇〇円分を差し引いた二、四九三、〇四〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告大河慶二郎のその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(鈴木弘 丹羽日出夫 山崎宏)